『社会生物学』で有名なエドワード・オズボーン・ウィルソンの本。
読んだのは大分前だが、下のシロアリの倫理のくだりをメモしたくてもう一度借りてきた。
人間が自明と思っている様々な倫理・道徳が、高い知能・複雑な社会から直接に出てくるわけではなく、進化や遺伝と不可分なのだということを言った、有名なたとえ話。
シロアリが現生種の社会レベルから文明を発展させたとしよう。たとえばオオキノコシロアリという、蟻塚をつくるアフリカのシロアリをとりあげてみよう。このアリが地面の下につくる都市に似た巣には、それぞれ何百万という数の住民がいる。このシロアリの現在の昆虫としての社会組織の基本的性質を、人間の文化と同様の、遺伝を基盤とした後生則で導かれる文化に高めてみる。この昆虫文明の根底にある「シロアリの本性」には、働きアリは独身で生殖をしない、おたがいの糞を食べて共生細菌を交換する、化学物質(フェロモン)の分泌によるコミュニケーション、仲間の脱皮したぬけ殻や、死んだ仲間や傷ついた仲間を食べる日常的な共食い、などがある。ここで、スーパー・シロアリの倫理規範を強化しようとするシロアリの指導者のために、一般大衆に向けた年頭教書のスピーチを作成してみた。
私たちの祖先であるオオキノコシロアリが、新生代第三紀後期の急速な進化で一〇キログラムの体重と大きな脳を獲得し、フェロモン文字で書くことを習得して以来、シロアリの学術界は倫理哲学を高め、緻密にしてきた。そしていま、道徳的行動の規範を正確に表記することが可能になった。これらの規範は自明であり、普遍的である。それはまさにシロアリの真髄である。そこには次のようなものがある。暗闇への愛。腐生植物や担子菌にみちた奥深い地中への愛。他のコロニーとのさかんな戦争や交易のただなかにおけるコロニー生活の重要性。生理的カースト制度の神聖さ。個人の権利という悪(コロニーこそすべてだ!)。生殖を許された高貴な同胞への深い愛。化学の歌の喜び。脱皮ののちに、同じ巣の仲間の肛門からでた糞を食べる感覚的喜びと深い社会的満足。共食いの恍惚と、病や怪我をおったわが身を提供する恍惚(食べるより、食べられるほうが尊い)。
細かく見ると気にくわないところもたくさんあるのだが、科学と宗教とか、人間の本性とか、そういう分野に興味がある人は、誰でも必読の本ではあると思う。
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